榎本日記

OT3年目がなんやかんや生きていく話

『お手本のような爆弾発言であった』

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大学入学直後の話である。

授業において外国語科目、とりわけ英語の授業は必修科目であり、一部例外(もとからめっちゃ英語できてそれが証明できるすごい人)を除けば学部問わず必ず受講せねばならなかった。

例にもれず、私も受けることとなったのだが、私の英語担当の先生はとにかく怖いで有名であった。

なにがどう怖いかあまり説明されなかったが、多くの先輩が言うには「○すぞ☆」が口癖らしく、もう授業受ける前から私はビクビクであった。

そして緊張の授業初日、悲しいことに私が教室に入った時点でもう一番前のセンター席しか空いておらず、私は泣く泣くその席に座った。隣には女子生徒が座っており、私達は新入生の定番「よろしくね」的な挨拶を交わし、先生が話始めるのを待った。

授業が開始されると先生はとにかく英語で話した、とにかく話した。遅刻だめ、宿題提出しないのだめ、積極的に英語使わないとだめ、あれはだめこれはだめうにゃうにゃうにゃ、、、

はいはい、分かりました、ちゃんとします、ちゃんと授業もでます、遅刻もしませんだから○さないで!!私は心で叫んだ。私は生きて帰りたかった。

たくさんの注意事項を告げ、先生はようやく『まあ色々言ったけどこれが一番大事だ』と話の終着点を見せ始めた。早く終われ!

『日本語を使うな!ちゃんとした文でなくていいから英語を使え!英語の授業で日本語を使うことが俺は一番許せない!!』

はーーーーい了解!そういうことね!!英語さえ使えば良いのね!分かったよボス!それさえ守れば生還できるんだよね!ね!?

重大な勝利条件を告げられ、私は「この教室では絶対に日本語を使わない」と脳にインプットした。それさえ守ればこの授業はいける、、、!!

少しばかり安心した私は「先生、あんたの言いたいこと、アタイ、理解してるよ」とアピールすべく、首がもげるほど相槌をうった。ブンブンブン

すると隣の席の女の子が「なあ」と声をかけてきた。授業前に少し言葉を交わした子である。私が「どうした?」と問う間もなく、その子はこう言った。

「今先生が言っとったこと全然聞き取れんかったんだけど、結局なにしたらええん?(とても流暢な日本語)」

英語を!話したら!!良いんだよ!!!

私は我慢した。大声を出すことを。重罪を犯した彼女に犯した罪がいかほどであるか問い詰めることを。

この場における日本語!即ち死!しかもあろうことか我々は一番前の席である!!!なんてことをしてくれたんだ!!!!!!!!!!!!!

先生の顔は見れなかった。あまりにも怖かった。幸い先生はこのあまりにもスピーディーすぎる現行犯を取り締まる気はなく、私達は特になにも言われず、無事にその日の授業を生還した。先生見逃してくれてありがとう。
てかそもそも私は日本語話してないけど。

授業後、生きていることを噛み締め、次の授業へと向かう。次はフランス語の授業だ。次はどんな困難が待っているだろう。しかしどんなものがこようともきっと私は乗り越えられるだろう。なんてったって先程死の淵より帰還したばかりなのだから!

達成感と希望に満ち溢れていた私はまだ知らない。主犯の彼女もフランス語の授業を取っていたということを。そして英語にとどまらず、彼女は4年間通じて私を、いや、彼女の周りにいるすべての人間を、素晴らしい世界(という名のとんでも事件)にいざなってくれるということを。

私は まだ 知らなかったのだ。